馭者台ぎょしゃだい)” の例文
粗末な箱型をしたものに、ほろとはほんの名ばかりの、継ぎはぎだらけのねずみいろの布をおおっただけのものである。馭者台ぎょしゃだいなんぞもない。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
馭者台ぎょしゃだいには野兎のうさぎが長い耳をたらしてぶらさがっていたが、これは遠方の友人がこれから行われる饗宴きょうえんのために贈ったものであろう。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
馬車がようよう止まると、馬丁は馭者台ぎょしゃだいから飛び降りて来た。外国婦人も降りて来た。私たちの車夫も駈け寄った。往来の人もあつまって来た。
御堀端三題 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
馬車は輪鉄わがねの音をやかましくあたりに響かせながら近附いて来た。いつもの、つんぼじいさんが馭者台ぎょしゃだいにのっていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
どの車にも、やわらか鼠色ねずみいろの帽の、つばを下へ曲げたのをかぶった男が、馭者台ぎょしゃだいに乗って、俯向うつむき加減になっている。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
赤と青の角燈の光が、彼のうしろから虹のように投射してかすめ去った。トム公は、それが本社の表口を離れた馬車だと知ると、まッしぐらに追いかけて、馭者台ぎょしゃだいへとびついた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかたがありませんから、馬車の前の馭者台ぎょしゃだいの処にお爺さんと並んで乗って、ヒョロ子だけ中に這入らせようとしますと、天井が低いので、ヒョロ子がしゃがんでも頭がつかえます。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
馬車が前を通るとき馭者台ぎょしゃだいの上を見ると、木之助は、おやと意外に感じた。そこに乗っているのは長年見馴みなれたあの金聾かなつんぼじいさんではなく、頭を時分ときわけにした若い男であった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)