飯盒はんごう)” の例文
釣り上つて昼飯に薪を拾つて河原で飯盒はんごうに味噌汁を煮るのがうれしい。山吹の黄と山躑躅つつじの朱。味噌汁の中には山の幸たらの芽。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
けれどこの三箇の釜はとうていこの多数の兵士に夕飯を分配することができぬので、その大部分は白米を飯盒はんごうにもらって、各自に飯を作るべく野に散った。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そんな岡田はある朝、前の野営地に自分の飯盒はんごうをおき忘れ、分隊長に両ビンタを食い、その昼、みんなの食事をぼんやり眺めさせられるような刑罰を受けた。
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
失踪の朝飯盒はんごうの上に乗せてあった『野呂君と仲良くしてやって呉れ給え。彼はしんからの好人物であります』
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
石の形が飯を盛った様だからともいえば、或は飯盒はんごうの中にはいったままで、天から降って来た石だからともいっております。(出雲国式社考以下。島根県飯石郡飯石村)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兵士は機械掃除の仕事を終え、今度は飯盒はんごうから米がゆを鉢に入れた。もうすっかり元気を回復したように見える受刑者はこれに気づくやいなや、舌でかゆをぺろぺろなめ始めた。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
だが、しばらくすると浜田は、米が這入った飯盒はんごうから、折り畳んだものを出してきた。
前哨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
四人一組の復員兵たちが、飯盒はんごうで炊いた飯を、はしゃぎながら食べていた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
従軍記者の携帯品は、ピストルのほかに雨具、雑嚢ざつのうまたは背嚢はいのう飯盒はんごう、水筒、望遠鏡で、通信用具は雑嚢か背嚢に入れるだけですから、たくさんに用意して行くことが出来ないので困りました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あれを飯盒はんごうに入れて火にかけると、最初はガサガサ音を立てるがやがて静かになる。真赤な奴を食うのだが、とにかくその辺をはいまわっているカニだから、肉など全然なく、ちっともうまくない。
飢えは最善のソースか (新字新仮名) / 石川欣一(著)
飯盒はんごうの底をはいまわり 飯粒をあさっている
行軍一 (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
「川辺はその破片を飯盒はんごうの蓋に入れ、金槌でしきりに叩いてたね。いくら叩いても、粒状になる。粉には絶対になりませんでしたよ。骨が新しかったせいかな」
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
飯をこうと台所に行くと、僕の飯盒はんごうの上に一枚の便箋びんせんが置いてあって、なかなかの達筆で
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)