飢寒きかん)” の例文
法城は呪詛じゅその炎に焼かれざるはなく、百姓、商人、工匠たくみたちの凡下ぼんげは、住むべき家にもまどい、飢寒きかんに泣く。——まず、そうした世の中じゃ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その子は今日家内かないの一人にして、これを手離すときはたちまち世帯せたいの差支となりて、親子もろとも飢寒きかん難渋なんじゅうまぬかれ難し。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その平生へいぜい涵養かんよう停蓄ていちくする所の智識と精神とにるべきは勿論もちろんなれども、妾らを以てこれを考うれば、むしろ飢寒きかん困窮こんきゅうのその身をおそうなく、艱難辛苦かんなんしんくのその心を痛むるなく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かの女の行方をさがすための、恋の苦労と思うと、飢寒きかんも、ものの数ではない。恥をつつむれ編笠も、自分だけには、恥でない気がした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身内びいきは、入道の大きな短所にちがいなかったが、それは彼が、幼少から余りに飢寒きかんを骨身に知って来たせいであろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と共に、あらゆる飢寒きかん辛酸しんさんとの闘いも心ゆるんで、骨も肉も、筋も、いちどにばらばらにほぐれるかのような気もちになり、どたっと、そこへ坐ってしまった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)