頽然たいぜん)” の例文
六十一というにしては、ひどく頽然たいぜんとしていますが、これが半生金儲けに熱中して、石原町の鬼と言われた人間の死顔とも思われません。
今はすさまじく荒れ果てて器具も調度も頽然たいぜんと古び御簾みすふすまも引きちぎれ部屋に不似合いの塗りごめのがんに二体立たせ給う基督キリストとマリヤが呼吸いきづく気勢に折々光り
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
端正どころか、これだと、しごきで、頽然たいぜんとしていた事になる。もっとも、おいらんの心中などを書く若造を対手あいてゆえの、心易さの姐娘あねご挙動ふるまいであったろうも知れぬ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七十歳を越したパデレフスキーには、もはやテクニックに見るべきものもなく、その演奏には頽然たいぜんたる趣さえあるのである。
当時私たちはカサルスを、世界第一のチェリストであり、六十歳以上の頽然たいぜんたる老人とばかり思い込んだのである。
思ひの外おだやかな死顏です。六十一といふにしては、ひどく頽然たいぜんとしてゐますが、これが半生金儲けに熱中して、石原の鬼と言はれた人間の死顏とも思はれません。
七十以上の頽然たいぜんたる年輩でありながら、これほど気魄のある演奏が出来るのは、真に驚くべきである。
病床に半身を起したのは、頽然たいぜんたる主人です。かんの病で久しく寝ていたのが、三日前怒りに任せて奥方を折檻し、引続く心痛に疲れ果てて、物を言うのもおっくうそう。
病床に半身を起したのは、頽然たいぜんたる主人です。かんの病で久しく寢て居たのが、三日前怒りに任せて奧方を折檻し、引續く心痛につかれ果てて、物を言ふのもおつくふさう。
幸にして私共は祖師岡本綺堂先生をまつるの機運に恵まれた。先頃の「半七祭」を契機に、私は捕物作家としての仕事は終ってもい。私はもう古稀に近い頽然たいぜんたる老人だ。
捕物小説のむずかしさ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
が、浅草橋の御見附を越して、浜町の方へトボトボと辿たどって行く男巡礼、頽然たいぜんとした六十恰好の老爺に、何の不思議があろうとも、ガラッ八の八五郎には思えなかったのです。
番頭の佐助は六十を四つ五つ越したらしい、頽然たいぜんたる老人で、腰の曲つた、皺だらけな、——一生を帳場格子の中で暮して、算盤そろばん以外の事は、あまり興味を持つてゐないと言つた人柄でした。
番頭の佐助は六十を四つ五つ越したらしい、頽然たいぜんたる老人で、腰の曲った、しわだらけな、——一生を帳場格子の中で暮して、算盤そろばん以外の事は、あまり興味を持っていないといった人柄でした。