領元えりもと)” の例文
真紅まっかになった面をあげて、キラリと光った眼に一生懸命の力を現わして老主人の顔を一寸見たが、たちまちにしてくずれ伏した。髪は領元えりもとからなだれて、末は乱れた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして踏み脱いでいた布団を、又領元えりもとまで引き寄せて、あごうずめるようにして、又寐入る刹那には、おぼろげな意識の上に、見果てぬ夢の名残を惜む情が漂っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
よ、よ、と雪江さんが掛声をして障子を明けようとするけれど、かないのを、私は飛んで行って力任せにウンと引開けた。何だか領元えりもとからぞくぞくする程嬉しい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と刄物を※取もぎとろうとするを、渡すまいと揉合う危なさを見かねて、お柳は二人に怪我をさせまいと背後うしろへ廻って、長二の領元えりもとを掴み引分けんとするを、長二はお柳も己を殺す気か
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と小三郎は立上り、小脇差を引抜いて丈助の領元えりもとへあて、呼吸をはかって
しばらく藻掻もがいて居るうちに、ふと足掻あがきが自由になる。と、領元えりもとつままれて、高い高い処からドサリと落された。うろうろとして其処らを視廻すけれど、何だか変な淋しい真暗な処で、誰も居ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)