静止じっと)” の例文
旧字:靜止
一代の中に幾棟いくむねかの家を建て、大きな建築を起したという人だけあって、ありあまる精力は老いた体躯からだ静止じっとさして置かなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は正則の方をしてから、しばらく、約一年ばかりも麹町こうじまちの二松学舎に通って、漢学許り専門に習っていたが、英語の必要——英語を修めなければ静止じっとしていられぬという必要が、日一日と迫って来た。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この節子の答えは岸本を静止じっとさして置かなかった。実際、旅から帰って来た彼をもう一度節子に近づけたのも、あの不思議な低気圧であったから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正太がつ、一月あまり経つと、最早町では青梅売の声がする。ジメジメとした、人の気を腐らせるような陽気は、余計に豊世を静止じっとさして置かなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「宅は後から伺いますって」と豊世は微笑ほほえんで、「どうして、宅がこんな日に静止じっとしていられるもんですか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうお婆さんは捨吉に話し聞かせて笑って、ひと静止じっとしていられないかのように、ったり坐ったりした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と小僧が手拭てぬぐいを首に巻付けて出て行くのを見ると、三吉も姉の傍に静止じっとしていられないような気がした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芝居見物の晩から、お新もお牧に随いて山本さんの旅舎やどやの方へ一緒に成った。いよいよ女連おんなれん郷里くにへ向けてつという日には、山本さんは朝から静止じっとしていなかった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種夫はすこしも静止じっとしていなかった。部屋の内は正太の趣味で面白く飾ってあったが、子供はそんなことに頓着とんじゃくなしで、大切な道具でも何でも玩具にして遊ぼうとした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すべての情人を誘い出すようなこういう楽しい時が来ると、以前彼は静止じっとしていられなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たった一人の妹がいよいよ着くという前の日には、彼は二階の部屋に静止じっとして待っていられなかった。旅舎を出て、町の方へ歩き廻りに行った。それほど待遠しさにえられなく成った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この祭には、近在の若い男女おとこおんなは言うに及ばず、遠い村々の旦那だんな衆まで集って、町は人で埋められるのが例で、その熱狂した群集の気勢ばかりでも、静止じっとしていられないような思をさせる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
血気さかんなものには静止じっとしていられないような陽気だった。高瀬はしばらく士族地への訪問も怠っていた。しかしその日は塾の同僚をおとなうよりも、足の向くままに、好きな田圃道を歩き廻ろうとした。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)