青螺せいら)” の例文
髣髴はうふつたる海天に青螺せいらのごとく浮いてゐる美しい島島の散在を望んでも、も早詩が胸から無くなつた。人間墳墓の地を忘れてはならない!
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
多景島は青螺せいらの如く淡く霞み、沖の白石は丁度帆船が二つ三つ一と處にかたまつてゐるやうに見えてゐる。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
河畔かはんの木陰にテントを張ってはるかに浜辺をみわたせば、水波びょうびょうとして天に接し、眼界の及ぶかぎり一片の帆影ほかげも見えぬ、遠い波は青螺せいらのごとくおだやかに
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それにしても私は何んなに隠岐をきにあくがれたであらうか。私はその青螺せいら海濤かいたうの中に見るためにわざわざ日の御崎までも行つたではないか。地蔵岬の鼻まで行つたではないか。
隠岐がよひの船 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
銀泥ぎんでい利休屏風りきゅうびょうぶに、切燈台きりとうだいがチカチカと照り返していた。青螺せいらつぶしの砂床すなどこには、雨華上人うげしょうにんの白椿の軸、部屋の中ほどに厚いしとねを重ね、脇息きょうそくを前において、頬杖をついている人物があった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神島の一青螺せいらは怒濤の中にとはに聳えて、その向うに菅島、答志島の重り合つてゐる眺望——その眺望は、その風景は、依然として、元のまゝであらうけれども、しかも、その伊良湖の村
伊良湖岬 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)