障壁しょうへき)” の例文
いつかあかねいろの曠野こうやは、海のような青い黄昏たそがれとかわっていた。草をけって、いつ追われつする者たちには、十ぽうなにものの障壁しょうへきもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すもものかきねのはずれから一人の洋傘ようがさ直しが荷物にもつをしょって、この月光をちりばめたみどり障壁しょうへき沿ってやって来ます。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのあひだに何の障壁しょうへきもないのである。それでゐて、どうもよく分らない。のみならず、見てゐるうちに益々わからなくなつて来るやうな顔なのである。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
着衣喫飯の主人公たる我は何物ぞと考え考えてせんめてくると、仕舞しまいには、自分と世界との障壁しょうへきがなくなって天地が一枚で出来た様な虚霊皎潔きょれいこうけつな心持になる。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
矢岳と野岳との間の最低地空池からいけを控え、野岳と連接する妙見岳の裾野が、見事なスロープを作り最左方石割山との間に、寄生火山を持つ第一吹越ふきこし障壁しょうへきで、北を限った一大盆地がそれである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
孔明が軍馬を駐屯ちゅうとんした営塁えいるいのあとを見ると、井戸、かまど障壁しょうへき、下水などの設計は、実に、縄墨じょうぼくの法にかなって、規矩きく整然たるものであったという。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物かげにひそんで、一応辺りを眺め廻すと、船手組ふなてぐみのお長屋や役宅の棟がかぎの手なりに建てならび、阿波守の住む下屋敷の方へも、ここからは何の障壁しょうへきもなく、庭つづきで行かれそうだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「安土の御普請ごふしんにあたって、右大臣家からお招きがあっても、彼のみはおことわりして、名利にも権勢にも屈しなかった。何ぞ、亡主のあだ障壁しょうへきえがかんや——という気概きがいを抱いておるものとみゆる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)