かきがね)” の例文
ごとごと云わしてかきがねはずした後で夫を内へ入れた彼女はいつもより少しあおい顔をしていた。彼はすぐ玄関から茶の間へ通り抜けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は扉のかきがねを上げて(それもほんの今し方まで真鍮だったものが、彼の指が離れた時にはもう金になっていた)、庭へ出ました。
かきがねをあげてとびらを開き、中にはいると、まだ格子戸こうしどがおろされず大ランプがともされてない劇場の箱桟敷はこさじきにはいったのと同じ印象を受けるのだった。
既に晩かったので召使等は寝ていたが、ドリアンは自分でかきがねを外して入った。
そこで二人は第二の門を通ってまたかきがねをかけました。
かの女は土間に下りてかきがねをはずした。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
立てつけの悪いせいかと思って、二三度やり直したあげく、力任せに戸を引いた時、ごとりという重苦しいかきがねの抵抗力を裏側に聞いた彼はようやく断念した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銅貨の中に隠した針くらいの長さのその鋸で、錠前の閂子かんしや、かきがねの軸や、海老錠えびじょうの柄や、窓についてる鉄棒や、足についてる鉄枷てつかせなどを、切らなければならない。
二人はそこを通ってあとかきがねをかけておきました。
もうよほど前から彼女は三階の室から、ただかきがねの締まりだけの屋根裏の室に移っていた。天井とゆかとが角度をなしていて絶えず頭をぶっつけそうな屋根裏だった。
こう云ったお延はいつもする癖の通り、ぴくぴく彼女のまゆを動かして見せた。日中用のないくぐかきがねを、朝はずし忘れたという弁解は、けっして不合理なものではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が司教はそれらいっさいの金具をとり除いたので、戸口は昼も夜もかきがねでしめられるばかりであった。通りかかりの人でも何時たるを問わず、ただそれを押せば開くのだった。
かきがねをおろして座敷へ戻るや否や、また蒲団の中へもぐり込んだが
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は中庭にはいりこみ、なおちょっと足を止め、それからおずおずとかきがねをあげて戸を押した。
かきがねおろして座敷ざしきもどるやいなや、また蒲團ふとんなかもぐんだが
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)