鎧橋よろいばし)” の例文
彼は、クラスの誰彼を、その頃有名に成りかけていた、鎧橋よろいばし際のメイゾンコーノスへ引っ張って行って、札びらを切って御馳走した。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
探偵と湯河とは中央郵便局の前から兜橋かぶとばしを渡り、鎧橋よろいばしを渡った。二人はいつの間にか水天宮すいてんぐう前の電車通りを歩いていたのである。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また、日本橋のかぶと神社、鎧橋よろいばしなどの名も、みな将門の遺骸とか、遺物とかに、ちなみのあるものと、いい伝えられている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある時、あんぽんたんが六才か七才だったろう、初夏に、このおじさんと父との真ン中に手をひかれて、鎧橋よろいばしのたもとの吾妻亭という洋食やへいった。
そうして水天宮すいてんぐう前の大きな四つつじ鎧橋よろいばしの方に向いて曲ると、いくらか人脚ひとあしが薄くなったので、頬を抑えながら後から黙っていて来たお宮を待って肩を並べながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
人形町の水天宮すいてんぐう前から鎧橋よろいばしを渡り、繁華な町中の道を日影町へと取って芝の公園へ出、赤羽橋へかかり、三田の通りを折れまがり、長い聖坂ひじりざかに添うて高輪台町へと登って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はかかる風景のうち日本橋を背にして江戸橋の上より菱形ひしがたをなした広い水の片側かたかわには荒布橋あらめばしつづいて思案橋しあんばし、片側には鎧橋よろいばしを見る眺望をば、その沿岸の商家倉庫及び街上橋頭きょうとうの繁華雑沓ざっとうと合せて
それにしても米屋町の美代みいちゃんは今頃いまごろどうして居るだろう。鎧橋よろいばしの船頭のせがれの鉄公はどうしただろう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
通い慣れた市街まちの中でもその辺は殊に彼が好きで歩いて行く道だ、鎧橋よろいばしの方から掘割を流れて来る潮、往来ゆききする荷船、河岸に光る土蔵の壁なぞは、何時ながめて通っても飽きないものであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)