釵子さいし)” の例文
玉藻もきょうは晴れやかに扮装いでたっていた。彼女はうるしのような髪をうしろに長くたれて、日にかがやく黄金こがね釵子さいしを平びたいにかざしていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ、うつつと異ったは、日頃つややかな黒髪が、朦朧とけぶった中に、黄金こがね釵子さいしが怪しげな光を放って居っただけじゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わけても、新婦は、まだ華燭かしょくのかがやきのせない金色こんじき釵子さいしを黒髪にし、いつぎぬのたもとは薫々くんと高貴なとめの香りを歩むたびにうごかすのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉藻が榊の枝をひたいにかざして、左に右に三度振ると、白い麻はすすきのように乱れて、黄金こがね釵子さいしをはらはらとった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
じっと、俯向うつむいたきりの顔は、紙のように白かった、釵子さいしの光も、黒髪も、肩も、かすかに戦慄していて、そのまま、今にも失神して横にたおれはしまいかと危ぶまれる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きらびやかなぬひのある桜の唐衣からぎぬにすべらかし黒髪が艶やかに垂れて、うちかたむいた黄金の釵子さいしも美しく輝いて見えましたが、身なりこそ違へ、小造りな体つきは、色の白いうなじのあたりは
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
髪にも色気狂いのような釵子さいしやらかんざしやら挿して、亭主はおろか、股旅またたびでも、呑み助の暴れン坊でも、まちがえばちょいとつまんでほうり出すなどお茶の子だといわれているこのおばさんにしてさえ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)