野放図のほうず)” の例文
しかし、蹄の音がまだ消えるか、消えないうちに、たちまち屈託のない、野放図のほうずな百姓たちの笑い声が、にぎやかに雲のようにきあがる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
これには、さすが野放図のほうずなお悦も、愕然と色を失った。夢ではないかと身内をまさぐっていたほど、それほど三伝の生存は信じられなかった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「が、わしは清盛でない。清盛には、野放図のほうずもない夢が多すぎた。そのあげくに、あの熱病死。そして一門も壇ノ浦のあわれを見たわさ……」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柿江はガンベを野放図のほうずもない男だと思って、妙なところに敬意のようなものを感じさえした。そしてその日はできるだけさしひかえて神妙にしていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「この大馬鹿ものッ!……言わして置けば野放図のほうずもない。……こ、この俺が貴様などの智慧を借りるようで、天下の吟味方がつとまると思うか、不埓ものめ」
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
……艶々つやつやなまめいたおんなじゃが、ええ、驚かしおった、おのれ! しかも、のうのうと居睡いねむりくさって、何処どこに、馬の通るを知らぬ婦があるものか、野放図のほうずやつめが。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
単に野放図のほうずや遊戯的態度からしては、『新古今集』を性格づけるような声調はきざみ出されては来ないのである。そこには意志の緊張がる。彫り出すものの像をたえず虚空に見つめ得る眼が要る。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「またしても、またしても、言わしておけば野放図のほうずもない。毎朝三百棒をふるこのおれを、老いぼれとはけしからぬ。……これこのおれの、どこが老いぼれだ」
(——文化の破壊者だ。野放図のほうずもない魔王が、獣群を使嗾しそうして、社会を野原とまちがえて出て来たものだ)
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)