醇乎じゅんこ)” の例文
まず窯の人たちの貧しい暮しが、かかる素朴な醇乎じゅんこたる美を生んでいる大きな基礎だということを、感ぜざるを得ないのです。
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
元義の歌は醇乎じゅんこたる万葉調なり。故に『古今集』以後の歌の如き理窟と修飾との厭ふべき者を見ず。また実事実景にあらざれば歌に詠みし事なし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
水もとまらず、影も宿らず、そのお尻は醇乎じゅんことしてお尻そのものであり、明鏡止水とは、又、これである。
行雲流水 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
吾人の性情を瞬刻に陶冶とうやして醇乎じゅんことして醇なる詩境に入らしむるのは自然である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち山陽の山陽たる所以ゆえんであって、彼は漢詩の糟粕そうはくめている男ではえ、むしろ漢詩の形を仮りて日本を歌ったものだ、彼に於て、はじめて醇乎じゅんこたる日本詩人を見るのだ、意気と
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は高瀬家を流れる暗い血の最も醇乎じゅんこたる継承者として、盲目の力に押されて私たちの生活面に躍り出、一役買つたに過ぎないのだ。彼の不気味な相貌は、よくこの間の事情を説明してゐる。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして精神のうちにさわやかな柔らかいうるおいを生じさして、醇乎じゅんこたる思索の、あまりに峻厳しゅんげんな輪郭をなめらかにし、処々の欠陥や間隙かんげきをうずめ、全体をよく結びつけ、観念の角をぼかしてくれる。
松陰はもとより醇乎じゅんことして醇なる志士の典型、井伊も幕末の重荷を背負って立った剛骨ごうこつの好男児、朝に立ち野に分れて斬るの殺すのと騒いだ彼らも、五十年後の今日から歴史の背景に照らして見れば
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
醇乎じゅんこたる雅美生活に終始し得られたのである。
醇乎じゅんこたる感謝の一念である。おまけに、火口自殺というものは、棺桶代も、火葬の面倒もいらない。火口ではオペラグラスの賃貸料がもうかる始末で、後始末の方は全然手間賃もいらないのである。