逼塞ひつそく)” の例文
何れも旧南部藩の武家さむらひ、廃藩置県の大変遷、六十余州を一度に洗つた浮世の波のどさくさに、相前後して盛岡の城下から、この農村ひやくしやうむら逼塞ひつそくしたのだ。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
綱宗は不行迹ふぎやうせきかどもつて、七月十三日にに逼塞ひつそくを命ぜられて、芝浜しばはまの屋敷から品川にうつつた。芝浜の屋敷は今の新橋停車場の真中程まんなかほどであつたさうである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「三十両」と町人は胸で算盤をはじいてゐた。逼塞ひつそくした身には三十両といふまとまつた金は有難かつた。だが、銭金ぜにかねには替へ難いと思つて来た自慢の髯である。
三田は別段平生と變つた事も無かつたが、新聞社から受取つた長編小説の原稿料も夙につかひ果し、月末に賞與金を貰ふのを樂しみにしながら、逼塞ひつそくしてゐた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
其の結果、親店とも相談のうへ、彼は店を畳んで、当分仕舞うた家へ逼塞ひつそくすることになつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
逼塞ひつそく時代の寒い日のある夕方、羽織の下に褞袍どてらを着て、無帽で麹町通りの電車停留場に立つてゐたとき、頭の毛が寒風にそよいでゐた細い、丈の高い姿や、小意氣な浴衣の腕まくりをして
三十五氏 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
逼塞ひつそくした息はおなかの上へ墓標はかじるしをたてようとする。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)