逕庭けいてい)” の例文
此説は世の伝ふる所とはなは逕庭けいていがある。世の伝ふる所は一見いかにも自然らしく、これを前後の事情に照すに、しつくりと脗合ふんがふする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
上代人の思想と今人の思想との間には大なる逕庭けいていがあって、それはあたかも今日の小児の心理と大人との間に差異があると同じことである。
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
板庇にそそぐ雨の音をずることは同じであっても、茅葺かやぶき屋根に居住する人の心持と、トタン葺に馴れた人の心持とでは、その間に多大の逕庭けいていあるを免れまい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
会話が途断とぎれてから二時間ほど黙りこくって歩いた。幽かな径の跡が二叉にわかれている。何れをとってもさほど逕庭けいていはないみちだと高城が言うので、彼はしばらく考えた末、山に入る道を選んだ。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
いわんや、大喪の期未だ終らざるに、無辜むこの民驚きを受く。仁を求め国をまもるの義と、逕庭けいていあるもまたはなはだし。大王に朝廷を粛清するの誠意おわすとも、天下に嫡統を簒奪さんだつするの批議無きにあらじ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は彼の示した作と彼の協団的理想との間に大きな逕庭けいていを感じる。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と占部さんの頭と私の頭には大分逕庭けいていがあった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その点前の句とは多少の逕庭けいていがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)