追懐ついかい)” の例文
旧字:追懷
而して、窓が開いて、中から黒い毒気が洩れで、私の息を止めて、死んでも私は満足である。懐しい追懐ついかい! 懐しい追懐! どうかこの秘密の窓を開いてくれ。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二階の階段、長い廊下、教室の黒板、硝子窓から梢だけ見える梧桐あおぎり、一つとして追懐ついかいの伴わないものはなかった。かれらはその時分のことを語りながらあっちこっちと歩いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
自分はたばこを吸うても、何本吸うたか覚えのないほど追懐ついかいにとらわれてしまった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今でも実に何ともかとも申されぬなずかしきその時の光景ありさま追懐ついかいいたします。実に月日の過ぎ行くのは早いもので御座いまして、もはや当地に参りましてから年の半分は立ちました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いろいろなことが、追懐ついかいされた。何か本気で怒り出したのであろうか。それとも病気にでもなったのであろうか。考えているうちに、自分があの女学生に、あまりにたよりすぎていたことに気がついた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、佐渡の追懐ついかいが、なつかしい思い出として語られるし、幸村も
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供の頃のその追懐ついかいを話したりした。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
こうして、子供こども追懐ついかいにふけるということをおぼえました。子供こどもっている前方ぜんぽうには、かがやかしい野原のはらがありました。そして後方うしろには、うすあおそらがはてしなくひろがっていました。
はてしなき世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのあまい追懐ついかいの夢のような気持ちをなかなか放すことはできない。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、当時を追懐ついかいして、今の刀匠清麿をなつかしげに見た。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分はようやく追懐ついかいの念にとらわれて、お宮の中をまわりあるいた。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
バナナは、ひとりごとをしながら、追懐ついかいにふけっていました。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)