迷子札まいごふだ)” の例文
或る日、私の父が、私のために小さな竜を彫った真鍮しんちゅう迷子札まいごふだを手ずからこしらえてくれた。それが私にはいかにもうれしかったのだろう。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ともかく担ぎおろして身のまわりをあらためたが、彼女は腰巾着を着けていなかった。迷子札まいごふだも下げていなかった。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしどっちにしろ、顔容かおかたち判然はっきり今も覚えている。一日あるひ、その母親の手から、むすめが、お前さんに、と云って、縮緬ちりめん寄切よせぎれこしらえた、迷子札まいごふだにつける腰巾着こしぎんちゃく一個ひとつくれたんです。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と新吉は僅少わずかの金でも溜めて置いて呉れるのかと思いまして、手に取上げて見ると迷子札まいごふだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
迷子札まいごふだのような門鑑もんかん番士ばんしにしめして、その夜、しもにあったキリギリスみたいに、ビッコをひいた蛾次郎がじろうが、よろよろと躑躅つつじさき郭内くるわないにあるお長屋ながやへ帰ってきたのは、もうだいぶな夜更よふけであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは迷子札まいごふだですよ、親分」
迷子札まいごふだのような新しい小判がまさに十枚はいっていた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)