辰子たつこ)” の例文
「さっき見掛けたけれど、わたしの番じゃないから降りて来たのよ。あの人、せん辰子たつこさんのパトロンだって、ほんとうなの。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしまだそのほかにもまんざら用のない体ではなかった。彼女はちょうどこの機会に、妹の辰子たつこの恋愛問題にも解決をつけたいと思っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
辰子たつこは細い声で、ささやくようにこう云った。が、初子はつこは同情と云うよりも、むしろ好奇心に満ちた眼を輝かせて、じっと令嬢の横顔を見つめていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
俊助しゅんすけ辰子たつことは、さっきの応接室へ引き返した。引き返して見ると、以前はささなかった日の光が、ななめ窓硝子まどガラスを射透して、ピアノの脚に落ちていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしその割に彼女や辰子たつこの家庭の事情などには沈黙していた。それは必ずしも最初から相手をぼっちゃんと見縊みくびった上の打算ださんではないのに違いなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
須田町すだちょうの乗換で辰子たつこと分れた俊助は、一時間の後この下宿の二階で、窓際の西洋机デスクの前へ据えた輪転椅子に腰を下しながら、漫然と金口きんぐち煙草たばこくわえていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
辰子たつこは姉の向うに坐ると、わざと真面目まじめにこんなことを言った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)