おど)” の例文
左右に長いたてがみを振乱して牝馬と一緒におどり狂って、風に向って嘶きました時は——いつわりもなければ飾もない野獣の本性に返りましたのです。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日は高知こうちから、何とかおどりをしに、わざわざここまで多人数たにんず乗り込んで来ているのだから、是非見物しろ、めったに見られないおどりだというんだ
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一人の老人——蔵人は老人と老婆へ声を掛け、パッとその間へ身をおどらせ、ひたと火柱に向かい合った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
曾てほおへ触れるまでに低くれ下った枝葉の青い香をいだ時は何故とも知らぬなつかしさに胸をおどらせたというその青年を胸に描いて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しばらくは、何処どこをどう歩いているか夢中であった。その間代助の頭には今見た光景ばかりがり付く様におどっていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ナニ狐?」と紋兵衛は、恐怖の瞳をおどらせたが、「追ってくだされ! 俺は狐が大嫌いだ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
読めば読むほど、捨吉は精神こころの勇気をそそぎ入れらるるように感じた。彼は波のようにおどり騒ぐ自分の胸を押えて、勝子を見るにもえられなくなって来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鈴ちゃん僕が紀伊の国をおどるから、一ついて頂戴と云い出した。野だはこの上まだ踴る気でいる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隣の室の方からは子供の泣声も聞えて来た。時々お房の傍へ寄って、眼の上の白い布を取除いて見ると、子供の顔は汗をかいて紅く成っている。胸も高くおどっている。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の頭の中には職業の二字が大きな楷書かいしょで焼き付けられていた。それを押し退けると、物質的供給の杜絶とぜつがしきりにおどり狂った。それが影を隠すと、三千代の未来がすさまじく荒れた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狸は大方腹鼓はらつづみたたき過ぎて、胃の位置が顛倒てんどうしたんだ。君とおれは、いっしょに、祝勝会へ出てさ、いっしょに高知のぴかぴかおどりを見てさ、いっしょに喧嘩をとめにはいったんじゃないか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)