踏砕ふみくだ)” の例文
梯子段には敷物なければ、恰も氷を踏砕ふみくだくが如き物音、人気ひとけなき家中かちゆうに響き、何処いづこより湧きいづるとも知れぬ冷き湿気、死人の髪の如くに、余が襟元を撫で申候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何事の起ったのかと種彦はふと心付けばわがたたずむ地の上は一面に踏砕ふみくだかれた水晶瑪瑙めのう琥珀こはく鶏血けいけつ孔雀石くじゃくせき珊瑚さんご鼈甲べっこうぎやまんびいどろなぞの破片かけらうずつくされている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
物をもいわず裲襠を剥取はぎとってずたずたに引裂き鼈甲の櫛笄や珊瑚さんごかんざしをば惜気おしげもなく粉微塵こなみじん踏砕ふみくだいたのち、女を川の中へ投込んだなり、いかにもせわしそうに川岸をどんどん駈けて行く。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)