赤毛氈あかもうせん)” の例文
音のせぬように襖を開けて入ると、子供の時分から見馴れていた赤毛氈あかもうせんを掛けた机が、以前のとおりに壁ぎわにえられてあった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
日蔭の冷い細流せせらぎを、軒に流して、ちょうどこの辻の向角むこうかどに、二軒並んで、赤毛氈あかもうせんに、よごれ蒲団ぶとんつぎはぎしたような射的店しゃてきみせがある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ドテラ婆さん」と呼びならされて、本名の方は忘れられているギンは、赤毛氈あかもうせんのうえに、胡床あぐらをかいて、もう、だいぶん、陶然たる様子だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
半截を赤毛氈あかもうせんの上にひろげて、青楓氏が梅の老木か何かを描き、そこへ私に竹を添えろと云われた時、私はひどく躊躇ちゅうちょしたものだが、幼稚園の子供のような気持になって
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
絵の稽古の赤毛氈あかもうせんなどすっかり片づけ、隅の螺鈿らでんの小箪笥だけが、遠い燈火にきらめいていた。母が上って来て、床の間の前に、一つだけ離して置いてある座蒲団の上に坐った。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
煙管きせる突込つっこんで、ばったり置くと、赤毛氈あかもうせんに、ぶくぶくして、まがい印伝の煙草入は古池を泳ぐていなり。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と古畳八畳敷、狸を想う真中まんなかへ、しょうの抜けた、べろべろの赤毛氈あかもうせん。四角でもなし、まるでもなし、真鍮しんちゅう獅噛しがみ火鉢は、古寺の書院めいて、何と、灰に刺したは杉の割箸わりばし
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)