見番けんばん)” の例文
男は伊三郎という新富町しんとみちょう見番けんばん箱屋はこやで、何でもここの家のおかみさんが待合の女中をしている時分じぶんから好い仲であったらしい。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「なあに、そんなに大変な事もないんです。登場の人物は御客と、船頭と、花魁おいらん仲居なかい遣手やりて見番けんばんだけですから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○○君は自身評議会時代から階級的闘士として立つ以前、製糸工場で「見番けんばん」をやっていた経験がある。私に製糸工場の組織を図解して説明してくれた。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
大正八年十月十四日ノ午後一時カラ二時ノ間ニ、××デ警察署長ガ三人ト、判事ヤ検事ガ四人ト、松島見番けんばん芸妓げいしゃ二名ガ殺サレタ事件ノ原因ヲ調ベテ下サイ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当時食堂の二階は碁会所を開いてゐたから、碁席の番人関さんだとか、元巡査山口さん、祇園乙部見番けんばんのおつさん杉本さん等々、額を集めて町内会議がひらかれる。
探偵の巻 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その男の調査によると松島見番けんばんで二人の芸妓げいしゃが変死したのは事実だった……正にその通りだ。それを警察が強制して失綜届を出させている。葬式も法事も許さない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
或日彼はその青年の一人に誘われて、いけはたを散歩した帰りに、広小路ひろこうじから切通きりどおしへ抜ける道を曲った。彼らが新らしく建てられた見番けんばんの前へ来た時、健三はふと思い出したように青年の顔を見た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)