褪紅色たいこうしょく)” の例文
褪紅色たいこうしょくの上品な訪問着アフタヌーンを着けて綺麗きれいな優しそうな眼は幾分疲れを帯びた風情に恍惚うっとりと見開いていたが、こないだホテルで逢ったとおり
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
真面目まじめな顔で小母さんは造花を咲かせ続けた。紫の花。褪紅色たいこうしょくの蕾。緑の葉。の花。——クレエム・ペエパァの安っぽい造花であった。
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と、彼女は云うと猛然と私におどりかかって、銀色の唾液のなかで二枚の褪紅色たいこうしょくの破片が格闘をはじめた。しばらく波の音が水上の音楽を私達にもたらした。
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
寝所の次の部屋には、片隅に、蒔絵まきえ衣桁いこうがみえ、それに、青金摺あおきんずり裲襠うちかけと、褪紅色たいこうしょくの小袖が掛けてあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると乗客の降り終るが早いか、十一二の少女が一人、まっ先に自働車へはいって来た。褪紅色たいこうしょくの洋服に空色の帽子ぼうし阿弥陀あみだにかぶった、妙に生意気なまいきらしい少女である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
木の枝に褪紅色たいこうしょくの栗の実が、今にも落ちそうにイガの外にはみ出している。私はそれを尖端せんたん二叉ふたまたになった棒切れでねじ折る。そしてそれを草履の下でんで栗の実を採り出す。
コッフェルのふたには、薄い褪紅色たいこうしょくの木の実のようなものが山盛りになっている。……スープから食後の果物デッセエルまでのいろいろな喰べものが、蝋燭の光の中で鮮かな色をしておし並んでいた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
被衣かつぎのようなものをかぶっております。褪紅色たいこうしょくのうす絹です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
褪紅色たいこうしょくの被衣が、駒のうえに自然な姿で揺られて行った。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)