蔓薔薇つるばら)” の例文
やしきの焼け跡では、さびしく花をつけた蔓薔薇つるばらの二、三枝を折りとった。あとで、石橋氏の墓前に、供えたいと思ったからである。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
校門をくぐると、校庭の蔓薔薇つるばらなどは虫食いだらけの裸になってしまって、木という木はおおかた葉を振り落していた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
花やつぼみをつけた自然の蔓薔薇つるばら垣根かきねからなる部屋で、隣席が葉にさえぎられて見えず、どの客も中央の楽団から演奏されて来る音楽だけをたのしむ風になっていた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
五百坪ほどある庭を蔓薔薇つるばらの垣で仕切って、南がわに母屋、北がわに研究所の建物がある、明治の末ごろに某ドイツ人が建てたのだという、木造だががっちりとした二階建てで
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なむまいだぶ……、なむまいだぶ……と、六蔵の念仏のみが、痛切に胸にみ込んでくる。合掌して、焼け跡から折り取って来た生前遺愛の蔓薔薇つるばらを供え、香をく。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
植木市と云っても本格的なものではなくてカアバイトの光とみずきりで美しくよそおっている品物が多かった。でも値段が安いので、私は蔓薔薇つるばらや、唐辛子とうがらしの鉢植えなどを買いに行った。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
家の右手の方もまた、一面の芝生におおわれて、処々に蔓薔薇つるばらの絡みついた白ペンキ塗りのアーチや垣根が設けられて、ここにも白やピンク、乳白、紅、とりどりの花が一杯に乱れています。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)