蒔絵師まきえし)” の例文
旧字:蒔繪師
ペンキのなかった昔は、看板は立派な木材がもちいられ、そして彫刻師によって、書家によって、あるいは蒔絵師まきえしの手によって工夫されているものが多い。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ところどころのゆるい小川は、観世水のような紋様を流し、空には、蒔絵師まきえしの指でいだような細い夕月がある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青い友染の襦袢じゅばんの袖口をぶらりと出している——弱った——これが蒔絵師まきえしで。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もう一人、万兵衛の幼友達で、今は蒔絵師まきえしの名人と言われる、尾張町の藤吉の娘、お藤がいる。これは並大抵でない綺麗な娘だから、気の多い万兵衛がちょっかいを出していたかも知れない」
「この六助は蒔絵師まきえしだった」と去定は低い声で云った、「その道ではかなり知られた職人だったらしい、紀伊家や尾張家などにも、文台ぶんだい手筥てばこが幾つか買上げられているそうだが、妻も子もなく、 ...
これらは素地でありますが、これに塗師ぬりし蒔絵師まきえし沈金師ちんきんしとが加わって様々な漆器が出来上ります。輪島のものはぬりが手堅いのを以て世に知られ、その年産額は三百万円ほどに達するといわれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鋳金家、蒔絵師まきえしなどこそ、且つ世に聞こゆれ。しかも仕事の上では、美術家たちの知らぬはない、小山夏吉は、飾職の名家である。しかも、その細工になる瓜の製作は、ほとんど一種の奇蹟である。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蒔絵師まきえしの六助はそこに二年あまりいて、病気が重くなったから養生所へはいったのだが、二十年ちかくもまえ、——つまり蒔絵師として世評の高いころから、ふいと柏屋へやって来ては泊っていった。
これは当時石川県のある顕官けんかんの令夫人、以前はなにがしと云う一時富山の裁判長だった人の令嬢で、その頃この峠を越えて金沢へ出て、女学校に通っていたのが、お綾と云う、ある蒔絵師まきえしの娘と一つ学校で
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)