苦味走にがみばし)” の例文
苦味走にがみばしつて男らしかつた。たゞ何か大切なものが欠けてゐた。彼は身近かに、皆からやゝはなれて手持無沙汰にぽつねんと坐つてゐる房一を見つけた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
保さんの母五百いおの話に、五郎作は苦味走にがみばしったい男であったということであった。菓子商、用達ようたしの外、この人は幕府の連歌師れんがしの執筆をも勤めていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
インバネスに中折れの苦味走にがみばしった男と下町風のハイカラな娘が材木の積み重なった間で話しをしている。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
とりようによっては苦味走にがみばしって可愛ゆいところがあると、お絹もそう憎い人とは思っていなかったし、神尾もやくざだけに砕けたところがあって、どうかすると
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一寸ちょっと苦味走にがみばしった男ではあったが、なかなかの凄腕をもっていて、ひどく豪奢ごうしゃな生活をし、それに騙されて学校をでたばかりだった鷺太郎が、言葉巧みにすすめられるまま
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
苦味走にがみばしった、白眼にらみのきく顔をしていて、番士中でも口利き役の、指折りの一人だった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私の主人の血ののないオリイヴ色の顏、角張かくばつた廣いひたい、太い漆黒の眉、引込んだ眼、きつい相、きつと引き締めた、苦味走にがみばしつた口許——すべての、活氣、決斷、意志——は
「その男だ、色の淺黒い、苦味走にがみばしつた、ちよいと好い男の——」
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)