艶歌師えんかし)” の例文
夜店のやみに響く艶歌師えんかしのヴァイオリンといった種類のもので、下等ではあるが、妙に心にみ込む処のものでした。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
つじ艶歌師えんかしを聞いたり、酒場の一隅いちぐうに陣取ったりしていると想像した場合に、私の眼前に登場する人物の話している言葉が一つ一つ明確に私にわかるかどうか。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
文芸部員、振付師などが先生と呼ばれるのはまだいいとして、艶歌師えんかしあがり、声色屋こわいろやあがりの漫才芸人などが小屋では幹部級というところから先生と呼ばれている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それに、小林の仲間の艶歌師えんかしたちは、おそらくまだ帰っていますまい。あの連中の仕事は、一時すぎまでもつづくのですからね。それから一杯やって、帰るのは二時三時でしょう。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
地蔵さまのそばまでくると、人だかりの中でバイオリンをもった艶歌師えんかしが流行おくれの枯すすきをなげやりに歌っているのが見えた。細君らしい小さな女がそのわきに控えている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
流して歩く艶歌師えんかしです。むろん、知り合いではありません。偶然に見つけて、体格がよくて強そうなので、当たってみたのです。すると、報酬に目がくれて、この人はすぐ承知しました
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は下手げてなるものの味をより多く味わいれているためか高尚な音楽会も結構だが、夜店の艶歌師えんかしやみに消え行く奇怪な声とヴァイオリンに足が止まり、安い散髪屋のガラス絵が欲しくなり
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あるいはまた艶歌師えんかしアルベールが結婚の準備にと買って来た女のスリッパーを取り出す場面と切り換えに、ポーラが自分のへやではき古したスリッパーをカバンにしまっているシーンが現われたり
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小林という艶歌師えんかしを古井戸に埋めた事件、須原君の殺人会社の依頼で、世田谷の毛利という富豪の愛人を人造の底なし沼におとしいれる案をさずけた事件など、いくつも確証を握っている。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)