舌鋒ぜっぽう)” の例文
鏡花式の舌鋒ぜっぽうが、ようやく鋭い回転をはじめる。強度の近眼鏡をかけた細面。きざんだような高い鼻に、眉は遠山の霞とでも言おうか。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つまり、その官僚は、はじめから終りまで一言も何も言っていないのと同じであった。所謂民衆たちは、いよいよ怒り、舌鋒ぜっぽうするどく、その役人に迫る。
家庭の幸福 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんどは次席の村井河内、益田孫右衛門、江田善兵衛などが、舌鋒ぜっぽうをそろえて斬ってかかるようにつばをとばした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲子屋の舌鋒ぜっぽうが余りするどいので、末松子も沈黙してしまった。一座もややしらけかかったが、それを知らず顔に頬杖をついているのは尾崎紅葉氏一人であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少年にしてはあまり鋭すぎる舌鋒ぜっぽうに、秀之進が少しもてあましているところへ、「小四郎どこだ」という声がして、この少年の兄とみえる少し年嵩としかさのもうひとりの少年が
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お初の舌鋒ぜっぽうは、ふたたび、雪之丞に、鋭く注がれはじめた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こう口を開いて、この会談の目的にふれてくると、その舌鋒ぜっぽうは、相手の急所をつかんで離さなかった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その舌鋒ぜっぽうの的になったのは京太で、彼はかなえのところへも金をねだりに寄ったらしい。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども友人の舌鋒ぜっぽうは、いよいよ鋭く、周囲の情勢は、ついに追放令の一歩手前まで来ていたのである。この時にあたり、私は窮余の一策として、かの安宅あたかせき故智こちを思い浮べたのである。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
来太の舌鋒ぜっぽうも、その圧迫的な姿勢も、そういう種類のものに、かなり似かよっていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、老人の舌鋒ぜっぽうは、銘刀のように鋭かった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舌鋒ぜっぽうの持っていきどころがないようであった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
前の女を凌ぐ舌鋒ぜっぽうでやりこめにかかった
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
津留はこんどは舌鋒ぜっぽうの向きを変更した。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)