肥柄杓こえびしゃく)” の例文
皮膚病にかかればこそ皮膚の研究が必要になる。病気も無いのに汚ないものを顕微鏡けんびきょうながめるのは、事なきに苦しんで肥柄杓こえびしゃくを振り廻すと一般である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今まで肥柄杓こえびしゃく一つ持った事のない一知が、女のように首の附根まで手拭で包んだ、手甲脚絆てっこうきゃはんの甲斐甲斐しい姿で、下手糞ながら一生懸命に牛の尻を追い、くわを振廻して行く後から
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
出家も尻端折しりばしょりで肥柄杓こえびしゃくを振りまわさなければならぬ事もあり、その収穫は冬に備えて、縁の下に大きい穴を掘って埋めて置かなければならず、目前に一目千本の樹海を見ながら
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
直吉は、肥柄杓こえびしゃくの先に、どろどろのしずくの垂れている雑嚢をぶら下げて立っていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
住持じゅうじといっても木綿もめん法衣ころもたすきを掛けて芋畑いもばたけ麦畑で肥柄杓こえびしゃくを振廻すような気の置けないやつ、それとその弟子の二歳坊主にさいぼうずがおるきりだから、日に二十銭か三十銭も出したら寺へ泊めてもくれるだろう。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)