聡慧そうけい)” の例文
姿儀うるわしく性聡慧そうけい。文墨を習い、和歌をくし、また陶を善くす。家貧にして夫病み、自ら給するあたわず。烈婦べつに小店を開き、茶を煮て客に供しもって夫を養う。
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
親戚しんせきたのむべきものもない媼は、かねて棺材まで準備していたので、玄機は送葬の事を計らって遣った。その跡へ緑翹りょくぎょうと云う十八歳の婢が来た。顔は美しくはないが、聡慧そうけい媚態びたいがあった。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
聡慧そうけいなる者は落つれどしからざる者は落ちずとあるごとく、馬に取っては迷惑千万だろうが、その忠勤諸他の動物にぬきんでたるを見込み、特別の思し召しもて、主人に殉し殺さるるのだ。
ある疑問に似たものを持つ思いなしか、まなざしなどにはその人のよりも聡慧そうけいらしさが強く現われては見えるが、切れ長な目の目じりのあたりのえんな所などはよく柏木かしわぎに似ていると思われた。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は牝豹めひょうの前のうさぎのごとく、葉子を礼讃らいさんし、屈従していた。処女のような含羞はにかみがあるかと思うと、不良少年のような聡慧そうけいさをもっていたが、結局人間的には哀れむべき不具者としか思えなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
千代は絶えなんとする渋江氏の血統を僅につなぐべき子で、あまつさえ聡慧そうけいなので、父母はこれを一粒種ひとつぶだねと称して鍾愛しょうあいしていると、十九歳になった安永六年の五月三日に、辞世の歌を詠んで死んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)