聞棄ききず)” の例文
これを聞棄ききずてに、今は、ゆっくりと歩行あるき出したが、雨がふわふわと思いのまま軽い風に浮立つ中に、どうやら足許あしもともふらふらとなる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その経綸が実業家の眼から見るというべくして行うべからざる空想であったから、偶々たまたまその方面の有力者に話しても聞棄ききずてにされるばかりで話に乗ってくれなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けれども何の張合もなかった、客は別に騒ぎもせず、さればって聞棄ききずてにもせず、なん機会きっかけもないのに、小形の銀の懐中時計をぱちりと開けて見て、無雑作に突込つッこんで
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村端むらはずれで、寺に休むと、此処ここ支度したくを替えて、多勢おおぜい口々くちぐちに、御苦労、御苦労というのを聞棄ききずてに、娘は、一人の若い者におんぶさせた私にちょっと頬摺ほおずりをして、それから、石高路いしだかみちの坂を越して
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)