老媼ろうおう)” の例文
わたくしはそれをたずねて見ないあいだは心の落着きをとり入れられませんので、老媼ろうおうにこう尋ねて見たのでございます。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
青年これによりてすでに老成人ろうせいじんの思想あり、少女これによりてすでに老媼ろうおうの注意あり、そは基督教は物のじつを求めしめてその影をかろんぜしむるものなればなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
行燈あんどん灯影ほかげにうずくまりつつ老眼のやにを払い払い娘のもとへこまごまと書きつづっていたであろう老媼ろうおうの姿が、そのたひろにも余る長い巻紙の上に浮かんだ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
されど殿下は神社に御参拝になると、いと御気軽に祐明門の傍にある老媼ろうおうの茶店に御立寄になって、お伴の者に店にあったサイダーを下され、御携帯のお弁当をお開きになった。
ドイツの民間に口から耳へと生きている古い「おはなし」を、その散逸または変形するにさきだってあまねく集録したもので、筆者は、山村市井しせい老媼ろうおうなどの口からきいたままを
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
居合わせた人が、あわててその場にあった鉄瓶の湯をその老媼ろうおうの口に注ぎ込んだ。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
九十余歳の老媼ろうおうは、上唇をふるわせて、むしろ悲しむが如く、天井を仰いだ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのお言葉にはお礼を申しつくせないくらい、かたじけない思いがいたします。ご老媼ろうおうさま、いまから後はえにしなき、わたくしどもではないことを承知あるように。」
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
西坂本の庵室あんしつ隠栖いんせいする尼僧の母は、すでに六十歳を越した老媼ろうおうであることを思う時、滋幹の心は自然冷めたい現実の前に出ることを尻込みしなかったであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この祖母の「思い出の画像」の数々のうちで、いちばん自分に親しみとなつかしみを感じさせるのは、昔のわが家のすすけた茶の間で、糸車を回しているそでなし羽織を着た老媼ろうおうの姿である。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのうちに、一人の老媼ろうおう
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)