つづれ)” の例文
紫地錦むらさきじにしき直垂ひたたれを着て、つづれの錦に金立枠きんたてわく弓小手ゆごてをつけて、白重籐しろしげとうの弓を持っていましたが、今なにげなく振仰いで笠の中から見た面を、お松は早くも認めて
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殊に宋代以後に貴ばれた刻絲の如きは、即ち京都で謂ふつづれであるが、此等は裱裝切などに使用せられて現存して居るので、之を文獻に引き合はすことが難くない。
染織に関する文献の研究 (旧字旧仮名) / 内藤湖南(著)
名物裂めいぶつぎれの両面つづれの帯……山浦が織元をやめてひっこむ前に、一反だけ織った織留めの秀逸で、フランス代表部のモイーズさんが「無左右」の絶品だって折紙をつけたくらいのものでしょう。
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
野路のじや空、月のなかなる花野はなの惜気おしげも無く織り込んだつづれの丸帯にある。唐錦からにしき小袖こそで振袖ふりそでれ違うところにある。——文明の詩は金にある。小野さんは詩人の本分をまっとうするために金を得ねばならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)