紅椿べにつばき)” の例文
そういいながら倉地は愛子の顔ほどもあるような大きな手をさし出して、そうしたい誘惑を退けかねるように、紅椿べにつばきのようなあかいその口びるに触れてみた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
チロチロと行く小溝の黒い水に、鬼火のような紅椿べにつばきがグルグルと人の口を廻すように流れて、獄門橋という橋の名までが、まったく、夕方から夜の人通りを絶っている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、冬の日のわびしさに、紅椿べにつばきの花を炬燵こたつへ乗せて、籠を開けると、花をかぶって、密を吸いつつくちばし真黄色まっきいろにして、掛蒲団かけぶとんの上を押廻おしまわった。三味線さみせんを弾いて聞かせると、きそって軒で高囀たかさえずりする。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その香故にその花故に人は老を泣きぬ泣かれぬこき紅椿べにつばき
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)