笹縁ささべり)” の例文
いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と未来には末広がりに朦朧もうろうたる不明の笹縁ささべりがつきまとってくる。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
田川夫人はせわしく葉子から目を移して、群集に取っときの笑顔えがおを見せながら、レースで笹縁ささべりを取ったハンケチを振らねばならなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わけてもそのコールマン髭は特色的で、髭の上半分を剃り下げた青々とした笹縁ささべりが、或人は気障きざだと言いましたが、浮気な若い女達には、たまらない魅力であったらしいのです。
そのみちにずっと笹縁ささべりをつけている野苺のいちごにも、ちょっと人目につかないような花が一ぱい咲いていて、それが或る素晴すばらしいもののほんの小さな前奏曲プレリュウドだと言ったように、私を迎えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
銀紙のピカピカ光る小枝に綿の笹縁ささべりの雪
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
模様の周囲に藍と白とを組み合わせにした小さな笹縁ささべりのようなものを浮き上げて編み込んだり、ひどく伸び縮みがして模様が歪形いびつにならないように
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それが徴兵検査であっただけにそのびっくりはかなり複雑な感情の笹縁ささべりをつけたびっくりであったのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
のみならずいろいろな雑音はその音源の印象が不判明であるがために、その喚起する連想の周囲には簡単に名状し記載することのできない潜在意識的な情緒の陰影あるいは笹縁ささべりがついている。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
青灰色によごれていた雲そのものすらが見違えるように白く軽くなって美しい笹縁ささべりをつけていた。海は目もあやな明暗をなして、単調な島影もさすがに頑固がんこな沈黙ばかりを守りつづけてはいなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)