笹啼ささなき)” の例文
父が書斎の丸窓まるまどそと外に、八手やつでの葉は墨より黒く、玉の様な其の花は蒼白あおしろく輝き、南天の実のまだ青い手水鉢ちょうずばちのほとりに藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなき絶間たえまなく聞えて屋根、のき、窓、ひさし
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
かんざしの玉のような白い花の咲く八ツ手の葉陰には藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきしている。ひよどりは南天の実を啄もうと縁先に叫び萵雀あおじ鶺鴒せきれいは水たまりの苔を啄みながら庭の上にさえずる。鳩も鳴く。四十雀しじゅうからも鳴く。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こずえに高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染ったその葉さえ大抵たいていは落ちてしまうころである。百舌もずひよどりの声、藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきももうめずらしくはない。この時節に枇杷びわの花がさく。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)