窺知うかがいし)” の例文
採菊山人はすなわち山々亭有人さんさんていありんどにして仮名垣魯文かながきろぶんの歿後われら後学の徒をして明治の世に江戸戯作者の風貌を窺知うかがいしらしめしもの実にこの翁一人いちにんありしのみ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これは遂に知る道がない。今日竹渓の生涯を窺知うかがいしるにはその子枕山の後年に上木じょうぼくした遺稿二巻があるばかりである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『江頭百詠』は詼謔かいぎゃくを旨とした『繁昌記』の文とは異って静軒が詩才の清雅なる事を窺知うかがいしらしむるものである。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この時に賦した祭詩の詩の引は竹渓が平生の詩論を窺知うかがいしらしむるものである。それ故ここにこれを掲げる。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしこの貴重なる記録は壮時の詩稿と合せて共に大正癸亥きがいの災禍に烏有うゆうとなった。今日毅堂の生涯を窺知うかがいしるべき資料は『薄遊吟草』一巻。『親灯余影』四巻。『毅堂丙集』五巻。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そもそも一技芸の起らんとするや、そが創始時代の制作には必ず原始的なる粗野の精力とこれを発表する簡朴かんぼくなる様式とのあいだ後人こうじんの見て以て窺知うかがいしるべからざる秘訣ひけつを蔵するものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寝屋ねやの屏風太鼓張たいこばりふすまなぞ破れたるを、妻と二人して今までは互に秘置ひめおきける古きふみ反古ほご取出とりいだして読返しながら張りつくろふ楽しみもまた大厦高楼たいかこうろうを家とする富貴ふうきの人の窺知うかがいしるべからざる所なるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)