空谷くうこく)” の例文
空谷くうこくの中に立って、この男がこう叫びました。七兵衛は、よくいってくれた、もっと何かいって下さいという感じがしていると
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
座敷はしんとしずまりかえった、空谷くうこくのようになんの物音もしない。人々は身動きもせず、呪縛じゅばくされたように眼をみはり息をひそめて坐っている。
その深遠なるバッハ再検討の大題目をひっさげ来りて、当代音楽界の一部に空谷くうこく跫音きょうおんにも似たものがあるだろう。
今日の私どもには、なんでもない平凡な言葉としか聞こえませんが、さすがに舎利弗には、この「因縁」という一語ことばが、さながら空谷くうこく跫音あしおとのごとくに、心の耳に響いたのでした。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「女か」と、すこし落胆したが、それでもこの配所へは空谷くうこく跫音きょうおんだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
己の空費された過去は? 己はたまらなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂のいわに上り、空谷くうこくに向ってえる。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処あそこで月に向ってえた。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
空谷くうこく跫音きょうおんといおう乎、著るしく世間を驚かしたものだ。
これ空谷くうこく跫音きょうおんなり。盲人めいし急遽いそいそ声するかた這寄はいよりぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だがそこもうす暗くてよく見えない、そっと戸を明けて中へ入ってみた、とたんに権頭は宙を踏み、もんどり打ってどこかへ墜落した、彼は千仭せんじん空谷くうこくへおちたと信じ「助けてくれ」と叫んだ。
「全文、熱烈な念仏批判の文字だ。念仏門の教義も、あれには木ッ葉微塵みじんに説破されてしまった形だ。——空谷くうこく天飈てんぴょうというのは、ああいう文章のことではないか。何しろ、痛烈にやったものだな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空谷くうこく跫音きょうおんである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)