すが)” の例文
父は眼をすがめる様にしてチラと慎作を一瞥しただけで黙っていた。皆の無視的な態度が祖父の尖がった肩を余計に厳めしくした。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
花ならばえ腐ったつぼみかす、葉ならば霜にびた葛の裏葉の、返して春に、よも逢う女ではあるまいと、不憫がる眼のすがめ方をするのはあまり面白いものではありません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雨音のなかにすがめるやうな幸福な思ひがりよの胸に走つてくる。なぜ愉しいのだらう……。長い間の閉ぢこめられた人間の孤独が、笛のやうにひゆうと鳴るやうな気がして来る。
下町 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
正面まえへ廻って藤吉はその柘榴ざくろのような突傷をめつすがめつ眺めていたが、いっそう身体を伏せると、指で傷口を辿り出した。それから手習いをするように自分の掌へ何かしら書いていた。
ひとりの女夢にわが許に來れり、口どもり目すがみ足まがり手たれ色蒼し 七—九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
杯を手にして、すがめたような目で、じっと見る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
座敷へ入って来てから、ここまでの所作を片肘かたひじつき、ほおを支えて、ちょうどモデルでも観察するように眼をすがめて見ていた逸作は、こう言うと、身体を揺り上げるようにして笑った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
狸寝のすがめに見せつけられて、尚の事、不審を大きくした。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
そして遠視眼の人のするように眼をすがめてわたくしの顔をじっと見ました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)