疑惑うたがひ)” の例文
で、私は部屋へ案内するようにと云ふより外に仕方がなかつた。さうして、樣々の疑惑うたがひや心配に心を亂されながら、こゝに私は待つてゐるのだ。
奈何どうして斯様こんなところへお志保が尋ねて来たらう。と丑松は不思議に考へないでもなかつた。しかし其疑惑うたがひは直にけた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
東京よりきたれるなにがしと名乘りたれど、下婢は猶疑惑うたがひ晴れざるものゝ如く、じつとわれを打守りぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
誰も父様を打ちは仕ませぬ、夢でも見たか、それそこに父様はまだ寐て居らるゝ、と顔を押向け知らすれば不思議さうに覗き込で、漸く安心しは仕てもまだ疑惑うたがひの晴れぬ様子。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
立退たちのかうと云ふを夫三五郎が止めて烟草入を證據しようこに富右衞門にかぶせる上は立退たちのくに及ばぬ急に立去たちさらば却つて疑惑うたがひかゝると云れてお前は氣が付身躰みこしすゑたでは無か其時に三十兩と云ふ金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼の疑惑うたがひを除く状態ではなかつたので、私は、敷物の上に植ゑつけられた二本の大きな脚に私の眼を落して、溜息をして、早く遠くにはなしてくれるように願つてゐた。