こわ)” の例文
まことにおそろしいと言うことを覚えぬ郎女にしては、初めてまざまざと、おさえられるようなこわさを知った。あああの歌が、胸に生きかえって来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
強迫である。自分はあまりのことだと制止せんとする時、水野、そんな軽石はこわくないが読まないと変に思うだろうから読む、自分で読むと、かれは激昂げっこうして突っ立った。
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのお政の半面よこがおを文三はこわらしい顔をしてきっ睨付ねめつけ、何事をか言わんとしたが……気を取直して莞爾にっこり微笑したつもりでも顔へあらわれたところは苦笑い、震声ふるいごえとも附かず笑声わらいごえとも附かぬ声で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なぜ入道が、福原へ遷都せんとするのがいいと考えたかといえば、彼にとって、実に、誰よりもこわい——そして苦手でもある、公卿たちが、ややもすれば三井寺や奈良などの僧団の勢力とむすびついて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こわかったぞよ。此墓のみ魂が、河内安宿部あすかべから石担いしもちに来て居た男に、いた時はのう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)