猫撫ねこな)” の例文
猫撫ねこなで声で、静かに部屋へはいって行ったが、二たこと三ことなにか言っていると思ううちに、おやっという、ただならぬ叫び声が聞こえてきた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
顔に偽クリスチャンのような「優しい」媚笑びしょうたたえ、首を三十度くらい左に曲げて、彼の小さい肩を軽く抱き、そうして猫撫ねこなで声に似た甘ったるい声で
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
相手は猫撫ねこなで声でそれも引受け、いつかおたまさんとも逢えるようにしてやろう、夫婦になる手助けもしようと神文誓紙を書かない許りに云って呉れたものさ
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
行儀が悪いだけでなく人相も風態も悪い男から、猫撫ねこなで声をかけられて、細君は一層おろおろして
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
と、彼女は突然、甘ったれるような、そのくせ変に冷やかすような、猫撫ねこなで声でそう云いました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
むかしはここは貧乏で、猫撫ねこなで声のこの伯母は実家の祖父の家から、許可なく魚屋へ逃げるように嫁いだのだということだったが、このころは祖父の家より物持ちになっていた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
のませてまで、振りきって逃げた女が、宅助様へ——と猫撫ねこなで手紙をよこすというのは少し変だ。ははあ、この間から、弦之丞に会っていやがるんで、それでなんだな、何か計略を
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの蝙蝠安は松助よりももっとおとなしい、始終猫撫ねこなごえで物をいうようないやな奴であった。鶴蔵といい、伝五郎といい、こういう芸風の俳優は今はない。新蔵のことは後にあらためて書く。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうしてもそれは「待つ夜のロング」と言わねばならない。「猫撫ねこなで声」というような文句ももはや眠たいとされるようになった。どうしてもそれは「キャット撫で声」と言わねば人を驚かさない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女は返事なんぞしないで、困りきっていたあたしには猫撫ねこなで声で
僕らが思わず顔を見合わせると、陳が猫撫ねこなで声で言いました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
猫撫ねこなでごえで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
警察署長は見えすいた猫撫ねこなで声をしながら、ギロリと鋭い目で部下に合図をした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、彼女は急に甘ったれた猫撫ねこなで声を出しながら
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けだものの様な猫撫ねこなで声には、彼は人のいない襖の外で赤面した程、烈しい羞恥を感じたし、芙蓉の、昼間の彼女からはまるで想像も出来ない、乱暴な赤裸々せきららな言葉使いや、それでいて
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)