狐鼠々々こそこそ)” の例文
今し方壁の鼠穴へヘシ込んだ許りの濡れた古足袋を、二つ揃へて敷居際に置いたなり、障子を閉めて狐鼠々々こそこそ下りて行く。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私はもうあとは聴いていなかった。たれはばかる必要もないのに、そっと目立たぬように後方うしろ退さがって、狐鼠々々こそこそと奥へ引込ひっこんだ。ベタリと机の前へ坐った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
十年間語学の教師をして、世間にはようとして聞えない凡材のくせに、大学で本邦人の外国文学講師をれると聞くや否や、急に狐鼠々々こそこそ運動を始めて、自分の評判記を学生間に流布した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その跡をながめて文三はあきれた顔……「このはずしては……」と心附いて起ち上りてはみたが、まさか跡を慕ッてかれもせず、しおれて二階へ狐鼠々々こそこそと帰ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そんなら俺も彼奴あいつの事を素破抜すつぱぬいてやらう、と気が立つて来て、卑怯な奴等だ、何も然う狐鼠々々こそこそ相談せずと、退社しろなら退社しろときつぱり云つたら可いぢやないか、と自暴糞やけくそな考へを起して見たが
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)