狎々なれなれ)” の例文
そして同宿の者のいない時なぞ、私の目にもおかしく思われるほど狎々なれなれしい。男の方にはそんな気もなかろうが、女はたしかに持ちかけているのだと私も思った。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
お蝶を見ると馬春堂はまた心のうちで、伊兵衛が今もって帰らぬのはどうしたものかと、少ししゃくよみがえってきましたが、それはすぐ美しい娘の狎々なれなれしさに消されて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも鶴さんの目にみえて狎々なれなれしくなった様子に、厭気のさして来ていることが可悔くやしかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長い間の友達にでも云うような、男を男とも思っていないような夫人の声は、媚羞びしゅう狎々なれなれしさに充ちていた。しかも、その声は、何と云う美しい響と魅力とを持っていただろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
好みません。あれはよい海員だとは信じます。が、乗組員と狎々なれなれし過ぎるので、よい高等船員とは申されません。副船長というものは交際を避けておるべきです、——平水夫と酒を
百年の相識に別れた如くなにとなく心さびしかッたが……それも日数ひかずままに忘れてしまッたのに、今また思い懸けなく一ッ家に起臥おきふしして、折節は狎々なれなれしく物など言いかけられて見れば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
部屋にはもう電燈がついて、その晩の食物たべものこしらえるために、お島は狭い台所にがしゃがしゃ働いていた。印判屋の婆さんとも、狎々なれなれしい口を利くようななかになっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少年マドロスは、狎々なれなれしい眼で、理平の襟元から車内をジロジロと見廻した。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お島はそう言って小野田にも話したが、そこにお島の身のうえについて、何か色っぽい挿話そうわがありそうに、感の鈍い小野田にも想像されるほど、彼等はお島と狎々なれなれしい口のき方をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)