濁世じょくせ)” の例文
この暗澹あんたんたる濁世じょくせにも、なお、人間の社会が獣にまで堕落しないのは、天性いかなる人間にも、一片の良心は持って生れてきているからである。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時「往生極楽の教行きょうぎょう濁世じょくせ末代の目足なり。道俗貴賤、誰れか帰せざらんもの」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うや/\しく持佛堂にしょうじ入れて、深夜の御光臨は何御用にて候哉そうろうやと問うと、丞相の霊が答えて、自分は口惜しくも濁世じょくせに生れ合わせて無実の讒奏をこうむり、左遷流罪させんるざいの身となったについては
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これでも濁世じょくせを離れる気にならぬかと、仏がおためしになるような不幸を幾つも見たあとで、ようやく仏教の精神がわかってきたが、わかった時にはもう修行をする命が少なくなっていて
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
濁世じょくせにはびこる罪障の風は、すきまなく天下を吹いて、十字を織れる経緯たてよこの目にも入ると覚しく、焔のみははたを離れて飛ばんとす。——薄暗き女の部屋はけ落つるかと怪しまれて明るい。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一旦いったん濁世じょくせを捨てた法師が、またのこのこ濁世の親御の家へ帰って泣いておわびをするなどは古今に例の無い事のようにも思われますし、これでも、私にはまだ少し恥を知る気持も意地もあり、また
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
末期宋朝そうちょう濁世じょくせにも、なおこの一良吏があったのである。即日、流刑と決まり、林冲は白洲しらすで宣告をうけた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だって、いかに今は、濁世じょくせのどん底とはいえ、かみには宋朝そうちょうの政府があり、地方には各省の守護、管領。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、狭い小部屋の中で、一輪の花と、一服の茶だけで、その間、戦乱の世の中も、苦悩の人生も、ふと忘れて、濁世じょくせのなかにも気を養うというすべを、理窟なく覚えていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを膺懲ようちょうし、それを正し、濁世じょくせあえぐ良民の味方たらんとするのが、ここの者どもの悲願とするところだ。その悲願さえかなえば宋江も晁蓋も呉用もさいを焼いて解散する——といっている、と。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濁世じょくせ無限の底に鳴るウ——大鳴門! 大鳴門!」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)