深々しんしん)” の例文
深々しんしんと胸にも雪が降り積むようだ……。そして白々しい虚無がおれをたまらぬ淋しい子にひがませている。急に、父のきみへお会いしたくなったのだ。
夜は深々しんしんと更けて、麹町こうじまち六番町のウイラード・シムソンのやしきのあたりは、まるで山奥のように静まり返っています。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
有珠うす登別のぼりべつ音威音府おといねっぷ名寄なよろと言った、いずれも深々しんしんと雪に埋もれて眠ったような町々ばかり、今にもまた降り出しそうに重苦しく垂れ込めた灰色の空の下を
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ヴァイオリン・ソナタ第一番イ長調(作品一三)」は幽玄と言ってよいほどの深々しんしんとした美しさを持ったソナタで、コルトーとティボーの演奏したビクター盤は
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
左には両国橋が長蛇の如く蜿蜒えんえんとしている。右手は平右衛門町と浅草御門までの間の淋しい河岸で、天地は深々しんしんとして、神田川も、大川も、水音さえ眠るの時でありました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
深々しんしんと静まり返った夜の中に、細々と絶えては続く、淋しい泣声。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
深々しんしんと、毛の根のしまる寒さと、所々、骨ぶしの痛むのをこらえながら、かれはまた、暗黒の部屋を探りだした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「…………」静かではあるが、慈円の声は、たとえばひのきの木蔭を深々しんしんと行く水のひびきのように、耳に寒かった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)