浮沈うきしずみ)” の例文
この平助のトボケた調子に、隠居も笑い出した、外国貿易に、開港の結果に、それにつながる多くの人の浮沈うきしずみに、聞いている半蔵には心にかかることばかりであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
松坂以来九郎右衛門の捜索方鍼ほうしんに対して、やや不満らしい気色を見せながら、つまりは意志の堅固な、機嫌に浮沈うきしずみのない叔父に威圧せられて、附いて歩いていた宇平が、この時急に活気を生じて
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしというものは御覧ごらんとおなん取柄とりえもない、みじかい生涯しょうがいおくったものでございますが、それでも弟橘姫様おとたちばなひめさまわたくし現世時代げんせじだい浮沈うきしずみたいしてこころからの同情どうじょうせて、親身しんみになってきいてくださいました。
彼は忘れがたい旧師のことを一時の浮沈うきしずみぐらいで一口に言ってしまいたくなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あがったとか、さがったとか言って、売ったり買ったりする取引場の喧囂けんごう——浮沈うきしずみする人々の変遷——狂人きちがいのような眼——激しくののしる声——そういう混雑の中で、正太は毎日のように刺激を受けた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)