たい)” の例文
エレガントといってもいような、その立派な容貌風采、十数年の昔ではあるが、松本たい氏と会った時には、威圧をさえ感じたものである。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とにもかくにもたいさんの所へ、知慧を借りに出かけようとすると、ちょうどそこへその泰さんの所から、電話がかかって来たじゃありませんか。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先生は高等学校でたゞ語学を教へる丈で、外に何の芸もない——と云つては失礼だが、外に何等の研究も公けにしない。しかもたい然と取り澄ましてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
嫌いもしさげすみもしそうでしたから、いよいよたいさんの所へ駈けつけるまでには、どのくらい思い迷ったか、知れないほどだったと云う事でした。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その心配な筋と云うのを問わず語りに話して聞かせると、その友だちのたいさんと云うのが急に真面目な顔をして、「じゃお島婆さんに見て貰い給え。」と、熱心に勧め出しました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕等は無慙むざんにもひろげられたみちを向う両国りやうごくへ引き返しながら、偶然「たいちやん」のうちの前を通りかかつた。「泰ちやん」は下駄屋げたや息子むすこである。僕は僕の小学時代にも作文は多少上手じやうずだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同時に又「たいちやん」のゑがいた「虹」にありありと夕立ちの通り過ぎたのを感じた。僕を動かした文章は東西にわたつて少くはない。しかしまづ僕を動かしたのはこの「泰ちやん」の作文である。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)