水船みずぶね)” の例文
「なに、よい飲料水。たやすいことだ。水船みずぶねは、船長が船に帰るまえに、龍睡丸に横づけになっているだろう。電話で、すぐ命令を出すから……」
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
そうしてその煙が消え失せた時には、半分水船みずぶねになった血まみれの小舟が、肉片のヘバリ付いた艫櫓ともろを引きずったまま、のた打ちまわる波紋の中に漂っていた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
方船は、島の上に建っていた建物だから、普通の船のようなわけにはいかない。その半身以上を海に没し、建物の中も海水で充満している。まるで難破した水船みずぶねだ。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
思い思いにもとどりを切って海に捨て、水死したあとでも、一船いっせんの仲間だとわかるように、一人一人の袖から袖へ細引をとおしてひとつにまとめ、水船みずぶねにしたまま、荒天の海に船を流した。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鸚鵡おうむ返しにこんな挨拶をしながら、薬局生はうずたかい柚を掻きわけて流し場へ出た。それから水船みずぶねのそばへたくさんの小桶をならべて、真赤まっかゆでられた胸や手足を石鹸の白い泡に埋めていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
菊坂下の豆腐屋の水船みずぶねの上へ捨児すてごにして、私はぐ上総の東金へ往って料理茶屋の働き女に雇われて居る内に、船頭の長八ちょうはちという者といゝ交情なかとなって、また其処そこをかけ出して出るような事に成って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)