歩行あるい)” の例文
いつまで行っても松ばかりえていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行あるいたって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いざ帰らうとなると、チヤアンと外へ出て、先に立つて歩行あるいてござらア。いくら酔つても溝へ落つこちないのは、全くお月様のお蔭なんだ。全くだ実に有難てえや。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行あるいて来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行のていだ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
見え隠れに、ちらほら人が通るが、皆黙って歩行あるいいて居るので。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急いでいるようで、しかも地面の上を歩行あるいていないようだと、宗近君が云ったのは、まさに現下の状態によく適合あてはまった小野評である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『いやどうも厳しいお暑さでございます、せつせつと歩行あるいて参つたもんですから』
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
振袖姿ふりそですがたのすらりとした女が、音もせず、向う二階の椽側えんがわ寂然じゃくねんとして歩行あるいて行く。余は覚えず鉛筆を落して、鼻から吸いかけた息をぴたりと留めた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だがこの節は私の内職もひまだから、ちつともお金の工面は出来やアしないし、それに相変はらずお前は飲み歩行あるいてばかしゐて、ちつとも家へお金を入れておくれでないから、私やアこの十日ばかりは
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
昔し房州ぼうしゅう館山たてやまから向うへ突き抜けて、上総かずさから銚子ちょうしまで浜伝いに歩行あるいた事がある。その時ある晩、ある所へ宿とまった。ある所と云うよりほかに言いようがない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
落花啼鳥らっかていちょうの情けも心に浮ばぬ。蕭々しょうしょうとしてひと春山しゅんざんを行くわれの、いかに美しきかはなおさらにかいせぬ。初めは帽を傾けて歩行あるいた。のちにはただ足のこうのみを見詰めてあるいた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)